<2017年12月06日加筆修正>
<2018年05月31日加筆修正>
理学療法士の井上(@Rehacon)です。
仕事でご高齢の方のご自宅にリハビリに行くことが多いのですが、腰の痛みを訴える方は非常に多いです。
腰痛といっても様々な怪我や病気がありますが、その中でも過去に腰の圧迫骨折をしたことがある。という方は非常に多いです。
今回は、高齢者に多い骨折の1つである脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)について誰でも分かるようにお伝えしていこうと思います。
脊椎という言葉を使うと難しく感じるかもしれませんが、背骨が潰れてしまう骨折のことを言います。
非常に多い骨折で、臨床でもよく担当する機会が多い骨折です。
転移性圧迫骨折などもあるのですが、ここでは「骨粗しょう症を原因とした圧迫骨折」の説明をしていきます。
目次
そもそも脊椎って何?
脊椎というのは、いわゆる「背骨」のことをいいます。
- 首の骨(頸椎:けいつい):7個
- 胸の骨(胸椎:きょうつい):12個
- 腰の骨(腰椎:ようつい):5個
- 仙骨(せんこつ)
- 尾骨(びこつ)
これらの骨達の総称を脊椎といいます。世の中ではよく背骨といいますよね。
脊椎(胸腰椎)圧迫骨折とは
脊椎の圧迫骨折では、主に「骨粗しょう症」が原因で、そして尻もちをつくことにより発症しやすい骨折です。
時には自然に骨折している場合もありますし、お辞儀や勢いをつけて立ち上がるなどの日常生活での単純な動きでも骨折することがあります。
特に胸椎と腰椎の移行部、つまり先ほど説明した胸の骨の12番目から腰の骨の1番目辺りで骨折しやすいと言われています。
ただし、胸の骨や腰の骨ならどこでも起きます。
ですので、腰の骨で圧迫骨折を起こした場合は「腰椎圧迫骨折(ようついあっぱくこっせつ)」、胸の骨で圧迫骨折を起こした場合を「胸椎圧迫骨折(きょうついあっぱくこっせつ)」と呼びます。
脊椎(胸腰椎)圧迫骨折の主な症状
これはもうなんといっても「痛み」につきます。
私は骨折したことないですが、見ているととても痛そうです…
骨折具合とか痛みの程度は人によって違いはありますが、とにかく痛みが主症状です。
あとは骨折してしばらくしてから出てくる「遅発性(ちはつせい)麻痺」というものもあります。
遅発性麻痺とは
骨のつきが悪かったり、さらに骨が押しつぶされたりすると痺れや痛みなどの「神経症状」が出てくる可能性があります。
骨折してしばらくしてから症状が出てくることから遅発性と呼ばれています。
骨折の治癒過程(治るまでの過程)は以下の記事でまとめていますので、合わせてお読みください。
【関連記事】
●そもそも「骨折」ってどういうこと?「骨折」のメカニズムをやさしく解説します。
脊椎(胸腰椎)圧迫骨折の診断
これは、「レントゲン」ではっきりと分かります。
ただし、骨のつぶれがひどかったり、神経症状がある場合はCTやMRIの検査も必要になります。
脊椎(胸腰椎)圧迫骨折の治療方法
まず整形外科で処方されるのは「鎮痛薬」です。
鎮痛薬とは痛み止めのことです。
ロキソニンやセレコックスなど痛み止めといっても沢山種類があります。
そして単純な骨折では、「コルセット」がまず処方されます。
コルセットにも硬い、柔らかいとあり、それぞれ硬いコルセットを「硬性コルセット」、柔らかいコルセットを「軟性コルセット」と呼びます。
どちらが選択されるかは主治医の先生がレントゲンや痛みの具合によって決めることが多いですが、明らかに骨折具合が悪ければ最初は硬性コルセットが処方されます。
コルセットが処方されるということは、基本的にお辞儀を深くしたり、体を捻る動作に制限がかかります。
ということは、当然お辞儀をする・体を捻るというのはダメですよ!ってことになります。
コルセットをすることで動きに制限がかかり、それが嫌で外してしまう方もいらっしゃいます。
当然痛いですし、骨のつきが悪くなったりつぶれがひどくなれば痺れなどの神経症状が出てくることもありますので、基本的にコルセットはしましょう!
コルセットは骨がしっかり安定すれば外す許可が出ますので、それまでの我慢ですよ。
あとは基本的に安静は必要です。
3~4週でだいぶ改善するとされています。骨がついたかどうかはレントゲンを再度撮らないと分かりません。
骨折具合、糖尿病などの内科疾患がある、服薬状況、年齢などで骨のつく期間に遅れが生じることもよくあります。
一般的には3~4週といわれていますが、ご参考程度にしておいてください。
安静といってもずっと寝ているわけではなく、患部の安静であってそれ以外のところは「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」が起こらないようにしないといけません。
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骨折がひどい場合、骨のつきが悪い場合、神経症状がある場合については手術になることもあります。
手術では、骨の椎体部分にセメントを埋め込む手術があります。
セメントを入れることで骨の強度を高める手術になります。
では、廃用症候群を予防していくには…?
リハビリが必要になってきます。ここでやっとリハビリの出番です。
廃用症候群
過度な安静によって筋力が落ちたり、関節が硬くなったり、筋肉の短縮(短くなる)が起きたり、呼吸循環器系も弱くなったりします(呼吸機能低下、心機能低下など)。
はっきりいっていいことがありません。
このように廃用症候群が起きないためにリハビリが重要になってきます。
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脊椎(胸腰椎)圧迫骨折のリハビリの基本中の基本、ポイントは5つ!
- 過度な安静をしないこと
- 廃用症候群の予防が重要
- 痛みが強いうち、骨がつかないうちは体の動かし方・使い方が重要
- 痛みの軽減を図ること
- 痛みの範囲内で動くことは重要
この5つが基本的なポイントとなります。
では、以下に1つずつ説明していきます。
過度な安静をしないこと
これは上述した通りなんですが、過度な安静により廃用症候群が起きるからです。
廃用症候群の予防が重要
まずは体を起こすことが大切です。医療現場では「離床(りしょう)」と言います。
体を起こすことで呼吸循環器系がうまくサイクルしてきます。これを「ワッサーマンの歯車」と言います。
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●「早期離床」と「ワッサーマンの歯車」まさかこれを知らない療法士はいませんよね?すぐに理解できます。
体を起こすって言ったって、痛いじゃん!そう思われた方もいると思います。
そうなんです。痛いんですよね。ですから、体の動かし方・使い方が重要になるんです。
体を起こすことはとても重要です。
ただし、医療現場では「安静度」という言葉があり、体の状態によってはまだベッド上生活、ベッド60°までなら上げてOK、車椅子までならOK、歩いてOKなど主治医から指示があります。
これは主治医の指示に従ってください。
在宅生活している方であれば入院する程度ではないので、当然体を起こすことは問題ありません。
そして筋力トレーニングも重要です。
安静度がベッド上だとしても骨折部に負担のかからない運動はできますし、座ってでもできます。
さらに、姿勢を保持するための筋力を鍛えることも重要です。
高齢者では姿勢が崩れていき、その崩れた姿勢が日常的になると骨の圧迫などが強くなっていきます。
知らぬうちに圧迫骨折が起きていたり、そのことで「円背姿勢(腰が曲がった姿勢)」なども作られていきます。
予防的に姿勢を保持する筋肉を鍛えていくことも重要です。
【関連記事】
●「姿勢」と「腰痛」には密接な関係があります。腰痛の治療・ストレッチ・体操など予防方法について解説します。
筋力トレーニングと聞くとすごく大変なイメージを持たれるかもしれませんが、「筋肉を使ってあげる」というイメージをもってもらうといいと思います。
筋肉はつけるのは大変ですが、落ちるのはあっという間に落ちてしまいます。
簡単にできる筋肉を使う運動を一部ご紹介します。
脊椎(胸腰椎)圧迫骨折に対する筋力トレーニング(一部)
左の写真(スマホだと上の写真)は、中殿筋(ちゅうでんきん)という筋肉をトレーニングする運動です。
横向きになって下の足は膝を曲げ、上の足は伸ばしたまま上に持ち上げます。注意点は、足を持ち上げた時足が前に出てこないようにしてください。
右の写真(スマホだと下の写真)は、上記同様に中殿筋をトレーニングする運動と、太ももの内側をトレーニングする方法です。
中殿筋の運動は、立った状態で足を横に広げます。転倒しないように何かに掴まって行うようにしてください。
太ももの内側については、バスタオルを丸めたものや伸び縮みするボールなどを挟んで、それをつぶすように股を閉じます。
左の写真(スマホだと上の写真)は、ブリッジ運動といってお尻と背中の筋力をつけるためのトレーニングです。
仰向けで寝て、膝を立ててお尻を上に持ち上げます。ボールを挟んで行うとより効果的に行えます。
右の写真(スマホだと下の写真)は、カーフレイズという運動になります。立った状態で踵(かかと)を上に持ち上げます。
こちらの運動は、トゥーライズという運動になります。
椅子に座ってつま先を上に持ち上げてください。立ってできる場合は、立った状態で行うのも効果的です。
痛みが強いうち、骨がつかないうちは体の動かし方・使い方が重要
これまで上述してきた通り、圧迫骨折は体の前屈・回旋(お辞儀する・捻る)の動作はよくありませんし、この動きをするととても痛いです。
つまり、まずこの動作は避けることです。
お辞儀に関しては、低い位置からの立ち上がりだとお辞儀を深くしないと立つのが大変です。
「椅子は高めにすること」、低ければクッションなどをいれて高さを調整することが大事です。
在宅の方では、電動ベッドを使用している方も多くいらっしゃると思いますが、電動で高さを調整してください。
ケアマネさんや介護現場で働く方は利用者さんにアドバイスしてくださいね。
捻る動作は、寝てて寝返りを打つときや起き上がるときに起こる動きです。
ポイントは「上半身と下半身を一緒に回すこと」です。
丸太のように回るといったイメージです。
上半身と下半身を別に動かすと捻る動きが入りますから痛いです。
痛みの軽減を図ること
リハビリでできる痛みの基本的な軽減方法は、低周波療法・温熱療法・マッサージなどです。
話を戻しますが、筋肉というのは使わないでいると、どんどん弱くなったり筋肉が短縮してきます。
要は短くなってくるということです。
コルセットをしているとその周囲の筋肉はあまり使われません。
すると短くなってきたり、硬くなってきたりします。
さらに「防御性収縮(ぼうぎょせいしゅうしゅく)」と言って、痛みを回避するために力みが入ります。
例に挙げると、歯医者さんで歯を削られるときに痛いのを予想して、まだ痛くもないのについ口元に力が入ったりしませんか?
そんなイメージです。それが「防御性収縮」です。
この防御性収縮が繰り返されると筋肉はどんどん硬くなっていきます。
そして「トリガーポイント」が形成されます。
【関連記事】
●【随時更新】特集!筋膜・トリガーポイント関連記事まとめ
それを予防するために基本的なリハビリとして、「低周波療法」や「温熱療法」「マッサージ」などが行われます。
低周波療法については、家電屋さんで家庭用低周波機器も売っていますのでそれもいいかもしれません。
私は訪問リハビリで普段勤務していますが、時々使用することがあります。
ではマッサージについてですが、これはやり方には注意が必要です。
いわゆる「指圧」はよくありません。指圧というのは言葉の通り、指で圧力をかけます。押しますね。
圧迫骨折の方に対して、垂直に押すと再骨折というのが考えられます。圧力をかけて押すことはだめです。
ではどんなマッサージがいいのか。
これは筋線維に対してゆっくりと滑らせるように行います。
よく業界では「リリース」という言葉を使います。
こういうマッサージでしたら体への負担もないですし、リラクゼーションにもなります。
リラクゼーションは痛みを軽減するのにも有効だと思いますよ。というか私の臨床経験で効果は感じています。
【関連記事】
●『腰痛』を引き起こす代表的な7つの筋肉とトリガーポイント・マッサージ方法
痛みの範囲内で動くことは重要
安静という言葉を聞くと、全く動かないというイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、そうではなくて痛みに応じて動くことは重要ということです。
歩く許可が出ている人は痛みの範囲内で歩く、痛みの出ない・患部に負担のかからない運動を理学療法士に教えてもらって時間のある時は自主トレを行うことが重要です。
まとめ
かなりかみ砕いて、要約して説明したつもりですが、お分かりいただけたでしょうか?
大きなポイントとしては、
- 脊椎というのはいわゆる背骨のこと
- 脊椎は首・胸・腰・仙骨・尾骨で構成されている
- 診断は基本的にレントゲンでわかる
- 状態がひどいときはCTやMRIの精査も必要
- 治療は基本薬とコルセット、患部の安静が必要
- 過度な安静はだめで各リハビリテーションが重要であること
- 予防的なリハビリも重要であること
こんなところがポイントになります。
だいぶ長くなってしまいましたが、基本的なものはある程度網羅できていると思います。
必要情報は気付き次第随時更新していきますので、時々チェックしてみてくださいね。
それでは、参考になれば幸いです。
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はじめまして。同じくPTのKと申します。臨床経験は5年ですが、初めての就職が老健(維持期)だったこともあり、発症からの様子や治療の流れ、必要な装具や動作指導などに触れる機会が実習でしかなかったこともあり、情けないことですが今でもわからないことがいっぱいです。思考過程がとてもわかりやすく救われた気持ちです・・。勉強しなおそうと思います。これからも参考にさせて下さい。ありがとうございました・・。
コメントありがとうございます。
そう言っていただけると私もとても嬉しいです。
私自身もまだまだ分からないことだらけです。
もっと分かりやすく良質な情報を提供できるように頑張ります。
内容などでおかしな表現やご指摘等ありましたら、遠慮なく教えてください。
今後ともよろしくお願い致します。
井上