高齢者に多い足の付け根の骨折『大腿骨頚部骨折(人工骨頭置換術)』の原因・症状・リハビリ治療について解説します。


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<2017年12月06日修正・追記>

理学療法士の井上(@Rehacon)です。

今回は高齢者に多い骨折の1つでもある、『大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)』に対するリハビリの基礎知識をやさしく解説していきます。

特にこの骨折で問題になるのは、『人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)』という手術を行った場合に起こる『脱臼リスク』というものです。

人工骨頭置換術はよく行われる手術ですが、その後のリハビリが適切に行われるかどうかで、その後の日常生活に大きく影響します。

今回のこの記事では、大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術術後の概要と一般的に行われるリハビリについて解説をしていきます。

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大腿骨頚部骨折とは

大腿骨頚部骨折は、日本の人口の高齢化に伴い近年増加し続けている骨折の1つであり、年間に10数万人が受傷しています。

また、今後10年で20万人を超えるとも言われています。

原因としては骨粗しょう症で骨が脆くなっている方が転倒などにより発生しやすい骨折です。

男女比は男性が約2割、女性が約8割と言われいてます。

私の臨床経験でも確かに圧倒的に女性に多く、その要因は「閉経」です。女性は閉経後に骨が脆くなりやすいため、それが原因になっていると考えられています。

多くの方が骨折を機に寝たきりになってしまい社会問題にもなっていますね。

 

大腿骨頚部骨折の分類

大腿骨頚部骨折には、「内側骨折」「外側骨折」に分けられます。

内側骨折(関節包内骨折):いわゆる大腿骨頚部骨折

外側骨折(関節包外骨折):大腿骨転子部(転子間) 

大腿骨頚部
FNFX・X-P
出典元:一般社団法人 日本骨折治療学会

 
この記事では、術後一番問題になりやすい内側骨折について記載していきます。

 

内側骨折(関節包内骨折)

この内側骨折というのは関節包内という、関節を包んでいる膜があるのですが、この関節包の中で骨折が起きているものをいいます。

この場合、血流不足などが原因で骨がつかない、結果的に大腿骨の頭の部分を骨頭といいますが、この骨頭が壊死してしまうことが考えられます。

そのために手術が必要で、固定する手術ではなく人工のものに変える手術が必要になります。

これを「人工骨頭置換術」といいます。

英語で「Bipolar Hip Arthroplasty」といい、頭文字をとった「BHA」を医療現場ではよく使用する言葉になります。

 

人工骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty:BHA)とは

BHA
出典元:関節が痛い www.kansetsu-itai.com

あまり難しく考えないでください。

このBHAは、金属あるいはセラミックでできた骨頭で置き換える手術になります。
 
 

術後のリスク

この手術で問題になってくるのは、なんといっても「脱臼」です。

特に術後1か月の間は筋肉や皮膚も切ったばかりですから緩い状態にあります。

つまり抜けやすい(脱臼しやすい)状態と言えます。

そしてこの股関節は「屈曲・内転・内旋」という股関節の複合動作が入ることで脱臼します。

さらには、深く股関節を曲げることでも脱臼する可能性はあります。

もう1つのリスクが「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」というものです。

簡単に説明しますと、血の塊ができてしまうことをいいます。

心臓に飛んでしまえば心筋梗塞、脳に飛んでしまえば脳梗塞と重篤な病気をしてしまうことになります。

さらに、人工関節などの手術はこの深部静脈血栓症のリスクが高いとも言われています。

これにはリハビリで予防することができます。

 

術後リスクの予防

脱臼予防

まず術後は「外転枕(がいてんまくら)」というものを使用します。

これはどこの病院でも術後には装着しているはずです。

これをすることで夜寝ていても足が固定されていて脱臼する心配もないですね。

ただ、寝ている間も拘束されているみたいで体も精神的にもきついですけどね…

外転枕

深部静脈血栓症

これを予防するには足首を前後に動かすことが大事です。

これだったら寝ていてもできますし、筋力低下予防にもなります。一石二鳥ですね。

あとは物理的なものになりますが、弾性ストッキング」というのも使用します。

これもおそらくどこの病院でも装着すると思います。

リハビリで「メドマー」という機器を使用します。

この機器については病院によって使うのはまちまちかと思いますが、私個人はとても大事な手段だと考えています。

深部静脈血栓症予防にもなりますし、単純に気持ちいいですし、浮腫(むくみ)予防にもなります。

気持ちいいからやるっていうのは理学療法士の方には怒られそうですけど、リハビリをする上で動機付けにもなるんですよね。

そういう意味で使用するのも効果的だと考えています。
 
批判は受けませんのであしからず。

ただ高価なものなので病院によってないところもあるようですね。
 

大腿骨頚部骨折に対するリハビリの基礎

ベッド上安静の場合は上述のように足首の運動やお尻上げ、足挙げなどの運動をします。

あとは上記にも説明したメドマーですね。

ベッド上安静の指示がなくなったらまずは「離床」です。これは圧迫骨折や早期離床の記事でも書いてますが、結局これがまず大事です。

 
 
大まかな流れとしては

  1. 筋力トレーニング
  2. 股関節の関節可動域訓練
  3. マッサージ・ストレッチ
  4. 立位訓練
  5. 歩行訓練
  6. 脱臼をしないための動作訓練


という流れになります。

手術で傷になった周囲の皮膚や筋肉は硬くなりやすいです。

そこをマッサージすることは有効です。

以前にも書きましたが、マッサージといっても指圧ではなくて、周囲の組織を滑らすようなマッサージ、リリースと言いますがこういうマッサージが大事です。

分かりやすいのでマッサージという言葉を使用してます。

筋力トレーニングは「中殿筋」「大殿筋」などのお尻の筋肉の強化が重要です。

一部筋力トレーニングをご紹介します。

また、以下の関連記事でもまとめていますので、是非参考にしてください。

【関連記事】
ケツメイシRYOJIに起きた『特発性大腿骨頭壊死症』原因・リハビリを含めた治療方法と予防について解説します。
股関節『安定化機構』の概要とトレーニング・ストレッチの方法について解説します。

  
  ブリッジ運動(骨盤底筋群トレーニング)

中殿筋

歩行訓練もいきなり何も持たないでやるのではなく、まずは平行棒→歩行器→四点杖→T字杖→フリー(杖なし)という流れで行っていきます。

そして何といっても一番重要になるのが「脱臼予防」になります。

日常生活ではたくさん脱臼する姿勢が存在します。

普段は無意識にやっていることも沢山注意していかなければなりません。

写真を載せようと思ったのですが、非常にいいサイトがありました。

動画ですし、とても参考になりますよ!以下のサイトを参考にするといいと思います。

脱臼を起こさないための安全な動作

 

術後の股関節周りの痛みがなかなか引かない場合は、筋筋膜性の痛みのことがある

股関節の術後になかなか痛みが引かないことがあります。

こういうケースでは、手術の際にメスを入れた部分やその周囲、該当する筋肉と連結している筋膜に癒着が起きていることがあります。

このような場合は、筋膜の癒着が起きている「トリガーポイント」をケアすることが重要になります。

以下の記事でまとめていますので、是非参考にしてもらえたらと思います。

【関連記事】
『股関節』の痛みを引き起こす代表的な7つの筋肉とトリガーポイント

 

まとめ

  • 大腿骨頚部骨折は内側骨折と外側骨折に分けられる
  • 内側骨折には脱臼リスクと深部静脈血栓症のリスクがある
  • 脱臼予防と深部静脈血栓症予防が重要
  • 筋力トレーニングはお尻の筋肉を鍛えるのがポイント
  • 脱臼姿勢がどいうものか理解するのが重要

こんなところが大まかなポイントになります。

骨折をする前に予防することが最も大事ですが、それでも骨折というのは起こり得るものです。

大腿骨頚部骨折は高齢者の骨折でも1・2を争う頻度の高い骨折です。

ちょっとした理解があることでとても役に立つと思います。

 少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

【骨折の関連記事】
そもそも「骨折」ってどういうこと?「骨折」のメカニズムをやさしく解説します。
「脊椎圧迫骨折」に対するリハビリテーション
「橈骨遠位端骨折」に対するリハビリテーション
「肋骨骨折」に対するリハビリテーション
「上腕骨近位端骨折」に対するリハビリテーション

 

おすすめ書籍

専門家向け

一般向け

 

参考資料/引用画像

http://www9.plala.or.jp/sophie_f/referene/daitaikotu1.html
人工関節の広場
関節が痛い
外転枕画像
メドマー画像

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5件のコメント

大変お世話になります。大変有益な情報をありがとうございます。
1つ教えてください。
写真が掲載されている「外転枕」のメーカーが分かれば教えてください。
探していましたが、形が適しております。
宜しくお願い致します。

こんにちは。いつも楽しみに読ませていただき勉強させていただいてます。大腿骨頚部骨折で人口骨頭や人工関節置換術をされた方が、急性期の術後はじめて移乗する際、どちらの足から降りても禁忌肢位にならなければよいのですか?

早速のお返事ありがとうございます。言葉足らずですみませんでした・・。ベッドから降りる際の質問でした。狭い環境や心身機能、ご本人の習慣などで絶対はない答えかとは思いましたが、急性期の現場ではどうなんだろうと思いましたので質問させていただきました。現職場では(慢性期)禁忌肢位に注意し、動作のやりやすい方法で行っていることも多いので。

まろん様
ご質問ありがとうございます。また、いつも読んでくださって嬉しいです。ありがとうございます。

ご質問の件に関してですが、気になった点があります。

初めての移乗の際、どちらの足から「降りても」とありますが、これはベッドから降りる時なのか、それともベッドに腰掛けた状態から車椅子に移乗する時と、どちらの想定でしょうか?

いずれにしても、確かに禁忌肢位にならなければ大丈夫ですが、術後で急性期の場合、痛みがありますし筋肉に力がうまく入りません。つまり、手術した方の足はうまく動かせないということが予測できるので、手術をしていない方の足側から介助する方がリスクが少なく安全に行える。ということになります。

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井上 直樹
(同)Relate・(同)ALLMERU代表社員/理学療法士の井上直樹です。 このサイトでは一般の方に向けたリハビリの基本的な情報発信を行っております。また、不定期ですが雑誌や新聞などのマスメディア・WEB上のメディアにも情報提供を行っております。リハビリについての適切な情報発信は現在少ないのが現状です。リハビリのことはリハビリの専門職種(理学療法士・作業療法士・言語聴覚療法士)が情報発信するべきだと考えています。コンセプトは誰にでも理解できるように分かりやすく解説していくことです。リハビリに関わるコンサルティング事業を展開しております。お仕事依頼もお気軽にお問合せくださいませ。