高齢者に多い肩の骨折『上腕骨近位端(外科頚)骨折』の原因・リハビリ治療について解説します。


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<2017年12月06日加筆修正>
<2018年6月12日加筆修正>

理学療法士の井上(@Rehacon)です。

 
 
だいぶ久しぶりに骨折の記事を書きたいと思います。
 
これまで、高齢者に多い骨折の記事をいくつか書きましたが、高齢者に多い5大骨折は、
 
  1. 脊椎圧迫骨折
  2. 大腿骨頚部骨折
  3. 橈骨遠位端骨折
  4. 肋骨骨折
 
高齢者に多い5大骨折というのが、この4つの骨折に加え「上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)」というものがあります。別名「上腕骨外科頚骨折(じょうわんこつげかけいこっせつ)」とも呼ばれます。
 
今回は高齢者に多い骨折の1つである、「上腕骨近位端骨折」についての概要と一般的に行われるリハビリを含む治療方法について解説していきます。

【関連記事】
そもそも「骨折」ってどういうこと?「骨折」のメカニズムをやさしく解説します。

 

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上腕骨近位端(外科頚)骨折とは?原因は?

 
上腕骨・上腕骨外科頚
 
上腕骨の上の方の部分を「上腕骨近位端」といい、特に上腕骨の「外科頚(げかけい)」という部分が骨折をしやすい部分となります。
 
ここの骨折は転倒して手をつくと、その外力によって骨折が起こります。
 
比較的頻度の高い骨折の1つです。
 
多くの場合、骨粗鬆症など骨が弱くなっている高齢者に多く、同じような受傷機転では橈骨遠位端骨折も起こりやすい骨折の1つです。
 
スポーツや交通事故、高いところから落下して手をつくなどの強い外力が加わることで、若い方でも受傷することがあります。
 
 
 

上腕骨近位端(外科頚)骨折の検査と診断

 
骨折ですので、レントゲンを撮影することで診断されます。
 
この骨折では、転位(骨折部のズレ)がどの程度なのかを判断するのが重要であり、その判断をするためにCTが撮られることがあります。
 
単独箇所骨折している場合(大結節骨折) 複数箇所骨折している場合(外科頚+その他の部位)
出典元:古東整形外科
 
 
 

上腕骨近位端骨折の分類(Neer分類)

 
上腕骨近位端骨折では、Neer分類が世界的にも使用され、スタンダードな分類法となっています。
 
上腕骨大結節・小結節・骨幹
 
  • 骨頭(こっとう)
  • 大結節(だいけっせつ)
  • 小結節(しょうけっせつ)
  • 骨幹(こっかん)
 
この4つの部位の転位の有無と組み合わせで分類されます。
 
骨頭への血流の予後に与える因子を判定するのに使用されます。
 
Neer分類
1-part骨折
・骨片が転位していない。保存療法が適応となることが多い。
・予後は良好
2-part/3-part骨折
・骨片の転位が認められ、血行障害・骨頭壊死・偽関節などの合併症のリスクあり。
・プレート固定術、髄内釘固定術の手術が選択されることが多い。
4-part骨折
・骨頭が粉砕状で整復困難。
・人工骨頭置換術が適応される。
 
 
 

上腕骨近位端骨折で手術適応の場合

 
手術は上述したNeer分類の程度でどの手術が選択されるか決定されます。
 
手術は以下の目的で行われます。
 
  • ズレた部分を正常な位置へ戻すこと
  • 正常な位置で骨が癒合されること
  • 正常な肩関節の機能を取り戻すこと
 
手術の方法はいくつかあり、骨折状況によって主治医が選択します。
 
  • 髄内釘固定
  • プレート固定
  • 人工骨頭置換術

 

 
髄内釘固定 プレート固定 人工骨頭置換術
出典元:一般社団法人 日本骨折治療学会
 
 

上腕骨近位端(外科頚)骨折のリハビリ治療

 
上腕骨近位端骨折におけるリハビリテーションでは、保存療法が選択されても手術が選択されても基本的なアプローチ方法は変わりません。
 
補足
治療選択により、リハビリの開始時期、固定期間は変わります。または合併症の有無によっても違いはある程度でてきます。主治医に確認しましょう。
多くの場合転位がないことが殆どのため、その場合は主に「保存療法」が選択されます。
 
以下に保存療法を選択した場合に行われるリハビリを説明していきます。
 
上腕骨近位端骨折に用いられる保存療法は以下の通りです。
 
  • 三角巾やアームスリングで固定
  • バストバンド装着
  • 物理療法
  • 浮腫予防で手指の運動
  • 骨折部の癒合具合や痛みに応じて少しずつ肩の可動域を広げるための運動(関節可動域訓練)
  • 筋力トレーニング

 

三角巾やアームスリングで固定

固定期間は年齢や骨折状況によって変わりますが、概ね3〜4週間が一般的な固定期間となります。
 
 
 
この間も何もしないということではなく、患部以外の筋力トレーニングをすることや肩甲骨周りや首周りの筋肉は硬くなりやすいのでマッサージやストレッチなどを行います。
 
 

バストバンド装着

バストバンドは肩の安定性を保たせるために装着します。
 
 
 

物理療法

物理療法では、骨の癒合を促進させる目的で超音波療法が行われます。
 
出典元:メディックス
 

浮腫予防で手指の運動

肩の近くの骨折ですが、骨折をすることにより血行障害などが起こり、指や手の甲なども浮腫みやすくなります。
 
浮腫み予防のために手指のグーパーを行なったり、指先から肩の方向に向かってマッサージを行なったりします。
 
 

骨折部の癒合具合や痛みに応じて少しずつ肩の可動域を広げるための運動(関節可動域訓練)

骨の癒合状態に応じて、なるべく早期に肩周りの可動域を広げるための運動を行います。
 
この運動でメジャーな運動は、
 
コッドマン体操
 
です。
 
コッドマン体操は、五十肩の運動療法でよく行われる方法になりますが、上腕骨近位端骨折でも一般的なリハビリでは行われます。
 
 
 
【方法】
  1. ペットボトルやアイロン・その他重りを持ち、下に手を垂らします。
  2. 前後へ動かしたり、左右へ回す。
 
その他肩甲骨周りの可動域訓練も行うようにします。
 
 

筋力トレーニング

患部以外の筋力トレーニングは早い段階から廃用症候群予防と循環血流量を増やすために行います。血行がよくなると骨癒合が促進されます。
 
患部周囲の筋力トレーニングは骨折部が安定してから行います。目安は8週間ですが、主治医の許可を得てから開始します。
 
ここで重要になってくる筋肉は、
 
  • 棘上筋(きょくじょうきん)
  • 棘下筋(きょくかきん)
  • 小円筋(しょうえんきん)
  • 肩甲下筋(けんこうかきん)
 
この4つの筋肉で、回旋筋腱板(かいせんきんけんばん)を構成します。英語でRotator cuff(ローテーターカフ)といいます。
 
棘上筋・棘下筋・小円筋 肩甲下筋
 
この4つの筋肉が重要なのは、肩関節の安定性に関与するインナーマッスルだからです。

【関連記事】
肩『腱板損傷・腱板断裂』の原因・症状・リハビリ治療について解説をします。

 
上腕骨近位端骨折後はここの筋力低下が起こりやすいため、少しずつ負荷をあげながらトレーニングをしていくことが大切です。
 
 
 
【方法】
  1. セラバンドやスポバンドを使用します。
  2. 脇を閉めて脇が開かないようにゆっくり外へ開く。
  3. ゆっくり戻す。
 
 
【方法】
  1. セラバンドやスポバンドを使用します。
  2. トレーニングする手の反対側の足で抑え、そのまま横に持ち上げる。
  3. ゆっくり戻す。
 
あまり大きな負荷だと骨折部に負担がかかったり、インナーマッスルではなく、アウターマッスル優位になります。
 
セラバンドやスポバンドを使用し、小さな抵抗を高頻度で行うようにします。
 
 
 
 

まとめ

 
高齢者に多い骨折の1つである、上腕骨近位端骨折についての概要とリハビリ治療について解説しました。
 
骨折は正しい位置で骨が癒合し、その部位の関節運動が正常に行えるようになることが大切です。
 
勝手な判断はせず、骨の状態がどうなっているのか、どんな運動が必要か、どの程度の運動が必要かなど、主治医や理学療法士・作業療法士の専門家に相談しながらすすめてください。
 
それでは、参考になれば幸いです。
 
 

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井上 直樹
(同)Relate・(同)ALLMERU代表社員/理学療法士の井上直樹です。 このサイトでは一般の方に向けたリハビリの基本的な情報発信を行っております。また、不定期ですが雑誌や新聞などのマスメディア・WEB上のメディアにも情報提供を行っております。リハビリについての適切な情報発信は現在少ないのが現状です。リハビリのことはリハビリの専門職種(理学療法士・作業療法士・言語聴覚療法士)が情報発信するべきだと考えています。コンセプトは誰にでも理解できるように分かりやすく解説していくことです。リハビリに関わるコンサルティング事業を展開しております。お仕事依頼もお気軽にお問合せくださいませ。