疾患別リハビリテーション
指のしびれの原因の1つ『手根管症候群』の概要とリハビリ治療について解説します。
<2017年9月25日加筆修正>
<2018年5月31日加筆修正>
理学療法士の井上(@Rehacon)です。
普段仕事をしていると患者さんや利用者さんの訴えとして、「手先がしびれる」と訴える方が実は多くいます。
その指先のしびれ、首が原因といわれなかなか治らない場合、もしかしたら手根管症候群かもしれません。
今回は「手根管症候群」の概要とリハビリを中心とした治療についてお伝えしていきます。
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手根管症候群とは
手根管(しゅこんかん)とは
まず手根管について説明します。
写真を見ていただけるとお分かりいただけると思いますが、手首には小さな骨がたくさんあります。
この骨達の総称を「手根骨(しゅこんこつ)」といいます。
手根骨の上には神経や8本の腱(スジ)が通っていて、神経や腱を支える帯状のものがあります。
これを「屈筋支帯(くっきんしたい)」といいます。
手根骨と屈筋支帯を合わせた総称を「手根管」と呼びます。
手根管はトンネル状になっていて、トンネルの中を神経や腱が通っているという構造になります。
補足
手根管を通る腱(スジ)
長母指屈筋腱、人差し指〜小指の深・浅指屈筋腱それぞれ4本ずつ、合計8本が通ります。
専門家は覚えておく必要がありますが、専門家でない方はそれぞれの名前を覚える必要はありません。
手根管症候群とは
このトンネル内で通っている神経を「正中神経(せいちゅうしんけい)」といいます。
正中神経がトンネル内で様々な原因で圧迫されると、
指先のしびれが起こります。
手根管症候群の原因
- 妊娠・出産期
- 更年期の女性
- 手首の使い過ぎ
- 透析 など
これらが原因といわれてますが、妊娠・出産期、更年期の女性についてははっきりとした原因は分かっていません。
ただ1つの可能性として、女性ホルモンの乱れから腱の炎症やむくみが起こり、神経を圧迫してしまうのではないかといわれています。
男性よりも女性に圧倒的に多いのが特徴です。
また、手首を酷使するスポーツや日常生活動作によって起こることもあります。
手根管症候群の症状
初期症状としては、示指(人差し指)と中指に痛みやしびれが起こり、症状が進むにつれ、親指・人差し指・中指、さらに環指(くすり指)の半分まで症状が出ます。
手根管症候群の検査・診断
手根管症候群の検査で行われるのは以下の通りです。
- ティネル兆候
- ファレンテスト
- ダルカン兆候
- 親指の筋力検査
- 親指の腹に筋萎縮があるか など
ティネル兆候
手首の下辺りをスナップを効かして叩きます。または打鍵器というものを使用します。
この時、指先に痛みやしびれが起こるかを検査します。
ファレンテスト
手首を曲げて、もう一方の手で圧迫します。1分以内に指先に痛みやしびれが出るか検査をします。
ダルカン兆候
ティネル兆候と同じような目的になりますが、手首の下辺りを持続的に圧迫します。
この時、指先に痛みやしびれが起こるかを検査します。
親指の筋力検査
親指を曲げる筋力があるかどうか検査をします。
親指の腹に筋萎縮があるか
この親指の腹を「母指球(ぼしきゅう)」といいます。
この母指球が筋萎縮があるかどうか確認します。
筋萎縮=筋肉が痩せてしまうこと
母指球に筋萎縮が起こるとOKサインができなくなるという特徴があります。
これらの検査を行いますが、補助的な検査で筋電図や腫瘍が疑われる場合などはエコー検査やMRIが行われることもあります。
手根管症候群の治療とリハビリテーション
ボルタレンやロキソニンなどの痛み止めやビタミンB12などの薬物療法、湿布薬が処方されます。
また、腱鞘炎症状がある場合にはステロイド注射を行う場合もあります。
基本的には患部の安静が必要で、手首に負担がかからないようにすることが重要になります。
そのために、手首のサポーターは有用です。
手根管症候群に対する手術方法
上記のような保存療法で改善しない場合は手術が選択されることがあります。
手根管症候群は正中神経の圧迫により指先に症状が出る疾患です。
手術の目的は「神経の圧迫を取り除く」ことが目的となります。
手根管症候群の手術は侵襲が少なく、90%以上の方が社会復帰されているとのデータもあります。
手根管症候群に対するリハビリテーション
リハビリで神経の圧迫を取り除くことは困難です。
手根管症候群に対するリハビリの目的としては概ね以下の通りです。
- 手根管部の腱鞘炎やむくみの予防・改善
- 親指の付け根の筋力が落ちないようにすること
- 手首の関節の動きが悪くならないようにすること
- 手根管を通っている腱に関連する筋肉の柔軟性を保つこと
- 日常生活での動作指導
こういったことが主な目的となります。
手根管部の腱鞘炎やむくみの予防・改善
超音波療法
【超音波療法の効果】
・血流の改善により痛みを緩和する
・炎症の治りを高める
・組織液の運動を活発にして、むくみを軽減させる など
このような効果があります。
温冷交代浴
温冷交代浴も痛みの軽減を目的として行われます。
40℃前後の温水と10℃前後の冷水を準備します。
温水3分→冷水30秒
これを5回程度繰り返します。
ポイントは、「温水で始まり温水で終わること」です。
ここに紹介した超音波療法と温冷交代浴は私も臨床で経験していますが、いずれも効果は認めます。
超音波は病院に行かないとできませんが、温冷交代浴は自宅でもできますので、是非試してみてください。
親指の付け根の筋力が落ちないようにすること
親指だけでなく、以下脳ような健康グッズを使って全体的に握力を鍛えるようにすると効果的です。
手首の関節の動きが悪くならないようにすること
【方法】
- 肘をしっかり伸ばす
- 指を持って指を反らせる
- 30秒程度持続させる
手根管を通っている腱に関連する筋肉の柔軟性を保つこと
上の画像と同様に手首を反らすようにします。
そうすることで、関節の可動性維持とさらに筋肉のストレッチにもなりますので柔軟性を保つことができます。
日常生活での動作指導
例えばフライパンを使用する時は、片手ではなく両手を使うなど、手首に負担のかからない方法の指導を専門家に指示を仰いでください。
まとめ
手根管症候群についてまとめましたがいかがでしたでしょうか。
専門家でない方は細かい筋肉名まで覚える必要はありませんが、正中神経と8本の腱(スジ)が通っていてそこで圧迫されることにより痛みやしびれの症状が出てくると覚えておくといいかと思います。
また、治療は外科的な手術をしない保存療法が中心であること、保存療法で改善しない場合は手術が適応になることもあるとご理解ください。
指先の痛みやしびれは手根管症候群だけでなく、他の疾患でも起こる症状です。
もし症状が強い、改善しないという場合は早めに病院を受診することをおすすします。
それでは、参考になれば幸いです。
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