脳梗塞や脳出血などの脳卒中片麻痺による『分回し歩行』の原因とリハビリ治療を解説します。

脳卒中片麻痺に起こる分回し歩行のリハビリ治療

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理学療法士の井上(@Rehacon)です。
 
 
先日の記事で「内反尖足」のことについて書きました。
 
 
内反尖足は部分的な現象ですが、内反尖足を含む片麻痺歩行の多くは、足を外から振り回して歩く「分回し歩行」になりやすいのが特徴的です。
 
今回は、分回し歩行の概要と一般的に行われるリハビリ治療について解説をしていきます。
 

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分回し歩行とは

 
分回し歩行は、脳梗塞や脳出血などの脳卒中による歩行障害の1つになります。
 
脳卒中では「片麻痺」になることが多いですが、その中でも「痙性麻痺(けいせいまひ)」という筋肉がこわばる麻痺になると、この「分回し歩行」が起こりやすくなります。
 
分回し歩行 分回し歩行
 
分回し歩行 分回し歩行
 
この写真のように、痙性麻痺は下半身がこわばり足首や膝、股関節などをうまく曲げられなくなり、伸びて硬まってしまうようになります。
 
曲げられなくなることで足が床に対して引っかかりやすくなります。
 
 
この足先が引っかかりやすくなることの表現として、リハビリ用語ではクリアランスが良い悪いという表現をします。

足先が床に引っかかる:クリアランスが悪い

足が引っかからなくするために、足を外側から大きく回して歩くようになります。
 
このことを「分回し歩行」といいます。
 
分回し歩行は異常歩行の一種となり、歩行障害の1つになります。
 
 

「分回し歩行」のリハビリ治療とエビデンス

 
脳卒中治療ガイドライン2015に記載されている、リハビリに関わる分回し歩行についてのエビデンスは以下の通りです。
 
グレードについて
グレードA:行うよう強く勧められる
グレードB:行うよう勧められる
グレードC:行うよう考慮してもいいが、十分な科学的根拠がない
グレードD:行わないよう勧められる
 
 
①起立ー着座訓練や歩行訓練などの下肢訓練の量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)。
 
②脳卒中片麻痺で内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることが勧められる(グレードB)。
 
③慢性期の脳卒中で下垂足がある患者には機能的電気刺激(FES)が勧められるが、治療効果の持続は短い(グレードB)。
 
④トレッドミル訓練、免荷式動力型歩行補助装置は脳卒中患者の歩行を改善するので勧められる(グレードB)。

引用:脳卒中治療ガイドライン2015

 
 ②③については内反尖足の記事で説明していますので、合わせてお読みください。
 
 
注目すべき点は、①であれば主に「筋力」に着目されていて、④については「協調性」に着目されているという点です。
 
 
協調性とは、複数の関節や筋肉がうまく連動して動くという意味になります。
 
痙性麻痺になると、下半身は伸びる方向に突っ張るようになります。これを「伸展パターン」が強くなるとリハビリ用語では使います。
 
つまり、逆の作用である曲げる方の筋力はうまく使えなくなるため、筋力は弱くなる傾向にあります。
 
また上述したように、下半身が突っ張ってしまうために骨盤・股関節・膝・足首などと複数の関節をうまく連動して使えなくなって分回し歩行になります。
 
つまり、協調性が悪くなります。
 
このことを考えると、筋力と協調性を改善させるためのリハビリが必要になるということになります。
 
 

「分回し歩行」に対する筋力トレーニング

 
分回し歩行は協調性が悪くなることは説明しました。
 
ですので、1つ1つの筋力をトレーニングするよりも、全体的にトレーニングする方が経験上効果的です。
 
方法としては、ガイドラインでもある起立ー着座訓練が効果的です。
 
但しここで注意が必要なのは、膝などに痛みがある場合や、麻痺のない方の足を中心に行ってしまうことです。
 
この辺のコントロールは、専門家である理学療法士に指導してもらうことが必要です。
 
また、痙性麻痺の程度が比較的軽度の場合はそれぞれの筋肉をトレーニングしても効果的です。
 
その中でも特に、腸腰筋を使えるようになることは歩行そのものにとっても、呼吸機能にとっても重要です。
 
 
腸腰筋のトレーニング方法について以下にご説明します。
 
 

腸腰筋のトレーニング方法

腸腰筋トレーニング
 
【方法】
  1. 椅子に腰掛け、背筋を伸ばしたまま太ももを持ち上げる。
  2. ①が無理のない範囲で行える場合は手で抵抗を加える。
  3. 身体が後ろに倒れないように注意して行う。
 
腸腰筋トレーニング
 
【方法】
  1. 仰向けで寝て膝を立てて、トレーニングする側の足を持ち上げる。
  2. 写真くらいまでの高さまで持ち上げ、ゆっくり戻す。これを何度か繰り返し行う。
  3. 慣れてきたら、写真のくらいの高さまで持ち上げてそのままの位置をキープするように行う。

この際注意すべき点は「膝が伸びないこと」です。膝が伸びてしまうと、腸腰筋を効率的にトレーニングできません。

 

「分回し歩行」に対する協調性トレーニング

 
協調性は複数の関節や筋肉がうまく連動して動く事と上述しました。
 
これらをうまく使うためには、脳卒中治療ガイドラインでも示されている、トレッドミルを使うことや、自転車エルゴメーターを使うことが効果的です。
 
 
 
これらを使うことで複数の関節や筋肉を協調的に使用することが可能となります。
 
麻痺の状態にもよりますが、個人的に自転車エルゴメーターはよく使用していましたし、経験上、非常に効果的です。
 
また、仰向けで寝たまま行える方法としては、踵(かかと)を床につけたまま膝の屈伸を行うのも効果的です。
 
下肢の協調性トレーニング 下肢の協調性トレーニング
 
下肢の協調性トレーニング 下肢の協調性トレーニング
 
【方法】
  1. 仰向けになり、麻痺側の踵をつけたまま膝を立てる。
  2. 膝を立てたら、ゆっくりと戻す。
  3. 足が外側に開かないように注意して行う。
 
 

その他の方法:レッドコードセラピー(スリングセラピー)

 
引用画像:インターリハ株式会社
 
以前はスリングセラピーと呼ばれていましたが、最近はレッドコードセラピーと呼ばれるようになったこの治療方法。
 
リハビリ特化型デイサービスでも最近は導入されることが多くなってきました。
 
レッドコードセラピーの目的は様々ですが、片麻痺の方は筋肉のこわばりを抑えながら、各関節の分離した運動を促進することが可能となります。
 
但しこの方法は自宅では難しいので、レッドコードが導入されていて、尚且つ、理学療法士や作業療法士などのリハビリの専門家が所属しているところで行うことが必要です。
 
 

まとめ

 
脳卒中片麻痺の歩行障害「分回し歩行」の概要とリハビリ治療について説明をしましたが、いかがでしたでしょうか。
 
こちらで説明した方法はあくまでも1つの方法ですので、担当してもらっている療法士がいたり、知り合いに療法士がいる方は是非、色々アドバイスを受けてみてください。
 
それでは、少しでも参考になれば幸いです。
 
 
 

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井上 直樹
(同)Relate・(同)ALLMERU代表社員/理学療法士の井上直樹です。 このサイトでは一般の方に向けたリハビリの基本的な情報発信を行っております。また、不定期ですが雑誌や新聞などのマスメディア・WEB上のメディアにも情報提供を行っております。リハビリについての適切な情報発信は現在少ないのが現状です。リハビリのことはリハビリの専門職種(理学療法士・作業療法士・言語聴覚療法士)が情報発信するべきだと考えています。コンセプトは誰にでも理解できるように分かりやすく解説していくことです。リハビリに関わるコンサルティング事業を展開しております。お仕事依頼もお気軽にお問合せくださいませ。