理学療法士の井上(@Rehacon)です。
(PTではまだ浸透しないので理学療法士でいくことにしました。)
それでは本題ですが、医療・福祉の仕事をしていて必ず聞く言葉。
『麻痺(まひ)』
麻痺と一概にいってもみんな同じではありません。
麻痺には分類があり、部位別により名称も変わってきます。
こういうことを知ることで介護従事者の方々が麻痺に応じてどうケアするかというのが変わってきます。
今回は介護に関わる方が覚えておくべき『運動麻痺』について解説します。
【key word】運動麻痺・分類・介護
【対象者】介護に関わる方全て・療法士学生・看護学生 など
運動麻痺の定義
自分の意思で筋肉を動かせないことを「運動麻痺」といいます。
自分の意思で筋肉を動かせることを「随意運動(ずいいうんどう)」といいます。
つまり運動麻痺とは、『随意的に自分の手足を動かせない状態』とご理解いただければと思います。
運動麻痺の分類
完全麻痺
力が全く入らない場合をいいます。
不完全麻痺
部分的に力が入る場合をいいます。
痙性麻痺(けいせいまひ)
麻痺している手足の筋肉の緊張が「高い」ものをいいます。
弛緩性麻痺(しかんせいまひ)
麻痺している手足の筋肉の緊張が「低下」している、あるいは殆ど緊張が入らずダランとなっているものをいいます。
麻痺はなぜ起こるのか?
麻痺は、2つに分類することができます。
- 中枢性麻痺(ちゅうすうせいまひ)
- 末梢性麻痺(まっしょうせいまひ)
細かい話になると意味が分からなくなってしまいますので、非常にざっくりですが分かりやすく説明していきます。
中枢性麻痺
まず中枢とは「最も大事なところ」を意味します。
人間の身体というのは、動くために運動の指令を「脳」から送り出しています。
これを「中枢神経」または「上位運動ニューロン」といいます。
そしてこれは「無意識化」で行われるものです。
ここが障害されることを「中枢性麻痺(障害)」または「上位運動ニューロン障害」といいます。
末梢性麻痺
脳から運動の指令が出され、その指令を今度は全身へ伝えていく必要があります。
それを担うのが、「末梢神経」または「下位運動ニューロン」といいます。
ここが障害されることを「末梢神経麻痺(障害)」または「下位運動ニューロン障害」といいます。
中枢性麻痺と末梢性麻痺の違い
中枢神経(上位運動ニューロン)は、末梢神経(下位運動ニューロン)に筋肉をギュっと「収縮」させるように命令します。
そのため、中枢神経(上位運動ニューロン)に障害が起こると末梢神経(下位運動ニューロン)は勝手に筋肉を収縮させてしまいます。
つまり、筋肉がガチガチに固まってしまう麻痺が起こります。
このような麻痺を『痙性麻痺(けいせいまひ)』と呼びます。
一方で末梢神経(下位運動ニューロン)は、中枢神経(上位運動ニューロン)から「筋肉よ!収縮しろ!」という命令を受け、その命令を手足に伝える役割をします。
そのため、末梢神経に障害が起こると筋肉を収縮させる命令がうまく手足に伝わらないため、力が入らないダランとした麻痺が起こります。
このような麻痺を『弛緩性麻痺(しかんせいまひ)』と呼びます。
運動麻痺の種類
単麻痺(たんまひ)
手足のうち1カ所のみに麻痺があるものをいいます。
単麻痺は一般的には末梢神経障害(下位運動ニューロン障害)で起こりやすい麻痺です。
(例)交通事故で右腕の神経(腕神経叢)を損傷してしまうと、右手のみの麻痺が起こる。
片麻痺(かたまひ)
ちなみに、片麻痺を「へんまひ」と呼ぶ方がいますが、へんまひとは呼びません。
「かたまひ」です。
手足のうち、どちらかの手足に麻痺があるものをいいます。
片麻痺は中枢神経障害(上位運動ニューロン障害)が障害されると起こる麻痺です。
(例)右の脳に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が起こると左半身に麻痺が起こる。
対麻痺(ついまひ)
両足の麻痺をいいます。
対麻痺はバイク事故などで胸の脊髄よりも下の脊髄が損傷を受けることで両側性に障害された時に起こる麻痺です。
四肢麻痺(ししまひ)
両手足全てに麻痺があるものをいいます。
四肢麻痺はバイク事故やプールの飛び込みなどで首の脊髄が損傷を受けると起こる麻痺です。
麻痺の種類や分類によって介助方法は変わる
ここまで説明してきたように麻痺といっても様々です。
例えば、右半身の片麻痺で弛緩性麻痺の場合、手足はダランと筋肉の収縮がなく力が入りません。
このような場合、右半身の手足をしっかり曲げた状態をキープさせることで寝返りや起き上がりの介助がしやすくなります。
また歩行時は、アームスリングや三角巾を使用することで右手の位置を修正しやすくなり、重心のコントロールをしやすくなります。
私が弛緩性麻痺の方のリハビリをするときは、アームスリングや三角巾を多用します。
三角巾であれば安価で買えますし、病院で購入してもらえない場合は自分で買って使用していました。
逆に右半身の片麻痺で痙性麻痺の場合、筋肉は強ばっているのでそれをうまく利用して介助することが可能となります。
リハビリでいえば、必ずしも強ばっている筋肉を緩ませればいいということにはなりません。
このように麻痺1つとっても色々と対応が変わってくるということになります。
まとめ
だいぶざっくりした説明となりましたが理解していただけたでしょうか?
脳の話しになると急に難しくなる印象があると思います。
ただ、麻痺というのは介護現場でもよく聞く言葉の1つであり、麻痺の方を介護する場面はよくあります。
その麻痺を理解するには、中枢神経と末梢神経の理解があるないでは全然違います。
ざっくりでも中枢神経と末梢神経の違いが分かり、それによって麻痺の分類や種類が変わることを理解しているだけで見方が変わってくると思います。
それでは、少しでも参考になれば幸いです。
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【著者】Natural being代表。理学療法士・医科学修士・介護支援専門員。大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。その後、理学療法士の資格を取り、現在、介護職・看護師などの専門職に加え家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。
※Amazonより引用
質問です!
痙性が強い片麻痺の患者さんに時折見かける病態として、端座位から背臥位になる瞬間に(臥床動作時)、麻痺側下肢の筋緊張が高まりピーンと伸びてしまうことがありませんか??特に緊張が高い方は上肢も同様に高まることがあります。
これは、姿勢変換による刺激が伸張反射のような反応を引き起こしてしまっているのではないかと思っていましたが、井上さんの意見をお聞きしたいです!
この反応が繰り返されると、普段の生活から緊張を高める習慣がついてしまい、あまりよろしくないのかなと思っています。ゆっくり行うようにするといくらか軽減できる方もいらっしゃるのですが、なにか良い方法がありましたら教えていただけると助かります。
入院中からなるべく無理ない体の使い方を身につけて欲しいなぁと思いますので…