リハビリの基礎知識
腰痛予防のために介護従事者が理解しておくべき『ボディメカニクス』について理学療法士の視点から解説します。
みなさんこんばんは。
PT井上(@Rehacon)です。
今日は看護師さんや介護従事者の方、ご家族の介護をされている方に向けての記事になります。
利用者さんをベッド上で寝返りさせたり起こしたり、車椅子に乗せたりと介護は自分の身体にも負担のかかりやすい仕事です。
介護従事者の方の腰痛は、今や社会問題といっても過言ではありません。
自分の身体を守るためにも、なるべく負担の少ない方法を理解しておくのが望ましいです。
その方法が『ボディメカニクス』という概念です。
補足
あくまでこの記事では対象を介護従事者や介護する家族向けとなってますが、ボディメカニクスはどんな方でも腰痛予防として重要です。
ボディメカニクスの基本的な部分を理解しておけば、あとはどう応用していくかといことになります。
今回はボディメカニクスの基本的な考え方と理学療法士のエッセンスを加え、腰痛予防などについて解説していきます。
【key word】ボディメカニクス・腰痛・ボディメカニクス8原則・姿勢
【対象者】看護師・介護従事者・家族の介護をしている方
介護従事者の腰痛に対する調査
労働で発生する腰痛で多い職業
- 保健衛生業(医療・福祉)
- 商業(卸業・小売業 など)
- 運輸交通業(運送・搬入・仕分け など)
この3職業は腰痛が多いとデータから分かっています。
厚生労働省による調査
ここ最近10年の調査では、運輸交通業についてはやや減少し、商業は横ばい。
保健衛生業では増加傾向となっています。
つまり、医療介護従事者の腰痛は10年前と比較して2.7倍も増加傾向にあります。
2000年に介護保険制度ができて以降、介護労働者は1.7倍に増加しているもののそれを上回って腰痛が発生しているということが分かります。
このように、介護に従事する方の腰痛は非常に問題です。
低賃金から介護の仕事をする方が増えないという問題もあり、さらに腰痛による離職ということを避けないと今後の社会問題となります。
というかもうなってますね。
介護だけでなく、看護師の方々も腰痛の方は非常に多いです。
腰痛に関しての記事はこれまでも沢山書いてきました。
その中で腰痛に対しての予防が重要であることを伝えてきましたが、まずは腰痛にならないための動き方や姿勢というのはとても重要になってきます。
そのためには、ボディメカニクスの理解が必要です。
それでは以下に、ボディメカニクスについて解説していきます。
ボディメカニクスとは
ボディメカニクスとは「身体力学」のことになります。
ボディメカニクスとは、人間の運動機能である骨・関節・筋肉等の相互関係の総称、あるいは力学的相互関係を活用した技術のこと。
※引用:Wikipedia
簡単に言うと、「骨・関節・筋肉を動きに合わせてうまく使うこと」とご理解いただければいいです。
身体に負担のかかりにくい動きを理解するということです。
あまり難しく考えないでください。
ボディメカニクスには「基本8原則」というものがあります。
この8原則を活用していくことで自分自身、利用者さんの身体・精神的な負担軽減につながります。
ボディメカニクスの8原則
- 重心を近づける → 対象者(物)にできるだけ近づく
- 対象者(物)を小さくまとめる
- 支持基底面を広くする
- 重心を低くする
- 身体をねじらない
- 大きな筋肉を使う
- 水平移動をする
- てこの原理を使う
基本的な原則はこの8つになります。
支持基底面とは
言葉から考えてみると分かりやすいです。
「支える・基となる・底の面積」となり、身体を支えるための基礎となる床面のことをいいます。
この面積が広ければ安定するということです。
※引用画像:レクリエ
この画像のように、足だけで立っているよりも杖をつくと支持基底面が広がるのがお分かりいただけると思います。
この支持基底面から重心が外れてしまうとバランスを崩しやすくなります。
では、ベッドからの起き上がり→端座位→車椅子移乗で例えてみます。
利用者さんと自分の距離感を少なくする
↓
利用者さんの関節をなるべく曲げて、コンパクトにする
↓
曲げた足をベッドから降ろすことでてこの原理が働く
↓
自分の支持基底面を広くして重心を低くする
↓
てこの原理を利用して起き上がらせる
↓
ベッドから車椅子への移動時、ベッドの高さと車椅子の座面の高さは同じにする
↓
身体を回さないように水平移動できる位置に車椅子をセットする
↓
支持基底面を広くし、大きな筋肉を使ってそのまま水平移動し車椅子に乗せる
このような流れになります。
ではもう少し詳しく、理学療法士としてのエッセンスを入れてみます。
「大きな筋肉を使う」とありますが、大きな筋肉ってなんでしょう?
よく介護技術として紹介されているのが、「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」や「大殿筋(だいでんきん)」です。
確かにこの筋肉も大事です。
ただ、腹部のインナーマッスルが効いてないと腰痛は起こしやすくなります。
また、腹部のインナーマッスルが効くことで手足は安定して動かすことができ、使いやすくなります。(固めすぎはダメですが。)
大腿四頭筋や大殿筋で支えるのももちろん大事ですが、腹筋がうまく使えないと腰や背中の筋肉を過剰に使うことになります。
これは腰痛の原因になります。
腹筋を鍛えるのに簡単にできる方法があります。
それは、「ドローイン」です。
ドローインで鍛えられる筋肉は以下の通りです。
- 横隔膜(おうかくまく)
- 腹横筋(ふくおうきん)
- 多裂筋(たれつきん)
- 骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)
この方法については、以下の記事で詳しく解説していますので合わせてお読みください。
これらの筋肉は複数の筋肉を鍛えられ、腰痛との関連性の高い筋肉でもあります。
ドローインは非常に簡単にできるエクササイズですので、是非腰痛予防のために行ってみてください。
姿勢から考える
一番いけないのは、腰を深く曲げて身体をねじること。
これは椎間板の内圧をすごく高め、腰痛の原因になります。
※引用画像:ウィンターライフ推進協議会
このグラフを見ていただければ分かるように、腰を深く曲げた状態で何かを持ち上げるというのは一番椎間板に負担がかかります。
よくない姿勢というのがお分かりいただけるかと思います。
さらに、支持基底面が小さくなるとてこの原理が使えずに筋力に頼ることになります。
これも筋肉に負担をかけることになり、腰痛の原因になります。
つまり、支持基底面が小さく、腰を深く曲げ、身体をねじる介助方法というのは一番腰に負担がかかるということです。
ご理解いただけたでしょうか。
介護現場で活用するといいもの
ベッドのギャップアップや高さ調整
腰に負担の少ない高さで行う。
スライド(スライディング)シート
こういうものを使用すると負担が減ります。どんどん活用するべきです。
ゴミ袋
スライドシートを使用しなくても、ゴミ袋でも代用可能です。
ただ、切れやすく耐久性の問題があります。頻繁に使用する場合はスライドシートを購入したほうがお得です。
トランスファーボード
車椅子への移乗でいくらボディメカニクスを活用したとしても、負担が0になるわけではありません。
元々腰が悪い、介助が大変という場合は積極的にトランスファーボードを使用するように私はご家族、ヘルパーさんなどにお伝えしています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
介助というのは、一番ベストなのは「残存機能を活かすこと」です。
しかしその残存機能を評価しアドバイスするのは療法士の役割になります。
つまり、療法士が関わっている場合はどんどんアドバイスを受けていただくのが一番ベストです。
療法士が関わっていない場合、関わっていても聞きづらい場合などは、とにかく「安全で楽に行える方法」が自分自身の身体を守るためにも、利用者さんの負担軽減のためにもベストなのです。
そのために、ボディメカニクスの理解は必須であり、これに加え福祉用具を利用するというのが一番効率的で負担が少ないということになります。
もしもボディメカニクスについて分からないことがあればいつでもお気軽にご連絡ください。
参考になれば幸いです。
おすすめ書籍
理学療法士の方が書いたボディメカニクスの本です。
分かりやすいので役に立ちます。
ドローイン、姿勢の図、大変興味深い。
私は臍下丹田を研究しています。
『へそ下丹田考』Kindleにて刊行しています。
是非丹田の奥深い面白さを知っていただきたい。できれば私の跡継ぎになってほしい。
パソコンが苦手ですが、お友だちになってください。