股関節に慢性的な痛みがあり、股関節の動きが悪くなる変形性股関節症。
中高年の女性に多くみられます。
股関節に慢性的な痛みがあることで、歩き方や姿勢に悪影響を及ぼすため、股関節だけでなく、腰痛や膝の痛みなど全身に波及していきます。
適切な治療と予防がとても大切です。
今回は、変形性股関節症の原因や症状をはじめとした概要とリハビリを中心とした治療方法について解説をしていきます。
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股関節の解剖
股関節は、臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる場所と大腿骨の大腿骨頭(だいたいこっとう)という骨で構成される関節を言います。
ちょうど鼠径部(そけいぶ)の辺りが股関節に該当し、「足の付け根」と表現される方が多いです。
股関節は、人体の中でも大きな関節であり、片足で立つと体重の3〜4倍の負荷がかかると言われています。
つまり、階段の昇り降りや立ち座りなどでは、より負担が大きくなるということになります。
変形性股関節症と原因
変形性股関節症は、生まれつき起こる「先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)」や発育時に起こる「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」といった、幼少期からの後遺症が全体のおよそ80%と言われています。
40〜50歳代の女性に多く、加齢に伴い増加していきます。
変形性股関節症が起こる原因としては、
これらが要因となり、股関節の破壊が進んでいきます。
股関節の破壊が進むにつれ、骨が硬くなる「骨硬化(こつこうか)」や骨がとげのようになる「骨棘(こつきょく)」、骨に穴が開く「骨嚢胞(こつのうほう)」といった事が起きてきます。
スポーツを頻繁に行うなど、日常生活の活動性によって異なりますが、歳を重ねるごとに股関節の変形が進み、股関節の違和感や疲労感、股関節周囲に何らかの痛みが出てきます。
変形性股関節症は英語でHip Osteoarthritisとなり、股関節のOAと呼ばれます。
変形性股関節症の症状
主な症状としては、
- 痛み
- 関節の動きが悪くなる
- 歩き方がおかしくなる
- 筋力低下
こういった症状が起きてきます。
痛み(疼痛)
ここまで説明してきた通り、最も痛みを感じる場所は足の付け根(鼠径部)部分です。
それに加え、太ももやお尻、腰痛と広範囲に波及していきます。
注意が必要なのは、腰そのものに原因がある腰痛や
坐骨神経痛によるお尻から下半身への痛みはしっかりと鑑別する必要があります。
関節の動きが悪くなる(関節可動域制限)
初期段階では、それほど関節の動きには影響してきませんが、変形が進行するにつれ、様々な動きに影響してきます。
特に、股関節の内旋・外転・屈曲・伸展という動きの制限が起こりやすいのが特徴的で、和式トイレ・浴槽につかる・床掃除など日常生活に悪影響を及ぼします。
歩き方がおかしくなる(跛行)
上述しましたが、片足になると股関節に体重の3〜4倍の負荷がかかるため、歩く時に股関節の負担が大きくなり、痛みを感じます。
つまり、痛みを逃すような歩き方になります。
これを、跛行(はこう)と言います。
詳しくは以下の記事でまとめていますので、参考にしてください。
筋力低下
筋力低下は股関節周囲の痛みと大きく関わります。
痛みがあることで跛行が起きる→股関節周囲の筋肉をうまく使えない→股関節周囲の筋力低下が起こる。
といったように、連動して悪循環に陥ります。
筋力低下が起きてしまえば、股関節を支えられなくなるため、歩行にもより悪影響が出てきます。
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変形性股関節症の診断
診断はまず上記の症状を認めるかどうかと、レントゲン撮影で診断されます。
レントゲン撮影では、
- 関節が狭くなっていないか
- 骨硬化や骨棘・骨嚢胞が起きていないか
- Sharp角・CE角・AHIがどの程度なのか
これらの結果から、初期・進行期・末期と進行段階が判断されます。
ここではSharp角・CE角・AHIについては割愛します。
また、関節軟骨の状態やより関節内の多くの情報を得るために関節造影検査や股関節鏡による検査が行われることもあります。
変形性股関節症の治療
手術が適応されるかどうかは、年齢や進行具合により変わり、術式も変わってきます。
初期
初期の段階では、経過観察されますが、症状がある場合は寛骨臼回転骨切り術などが行われます。
進行期
進行期では寛骨臼回転骨切り術やキアリ骨盤骨切り術、末期に近い場合は、大腿骨骨切り術や場合によっては人工股関節置換術が行われます。
末期
末期でも若い方の場合は、関節を温存した手術が適応されますが、状態が悪い場合は人工股関節置換術が適応されます。
この辺りは主治医が状態に応じて判断することになります。
人工股関節置換術とは厳密に言うと違いますが、人工股関節置換術に似た手術で人工骨頭置換術という、
大腿骨頚部骨折によく使われる術式があります。
こちらは以下の記事でまとめていますので、合わせて参考にしてみてください。
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変形性股関節症のリハビリテーション
変形性股関節症に対するリハビリの大まかな目的は以下の通りです。
- 痛みの軽減・コントロール
- 筋力低下・筋萎縮の予防
- 股関節周囲筋や腰部などの筋筋膜の柔軟性改善・予防
- 安定した歩行の獲得
- 股関節に負担のかかりにくい日常生活の獲得
こういったところがリハビリをする目的となります。
痛みの軽減・コントロール
手術をしない保存療法と手術をしたあとでは対応は変わってきます。
痛みの軽減やコントロールは以下に説明する内容とつながってきますが、ここで簡単に説明します。
手術後であれば、手術の傷口周りは組織の癒着が起こりやすくなります。
その癒着が痛みの原因となることがありますので、癒着を取り除くための徒手的な治療が必要になります。
この辺は専門家に行ってもらう必要があります。
保存療法の場合も、痛みを避けるために必要な筋肉を使わなくなります。
そうなると、筋肉は萎縮し、筋力低下も起こり、筋肉だけでなく、筋膜や皮膚、皮下組織の癒着が起こります。
結果的に痛みにつながります。
こういうことを予防していくためには、股関節専用のサポーターを使用することや、杖などの歩行補助具をうまく使い分けていく必要があります。
また、患部の痛みをカバーするために、腰や逆の下半身などにも負担が増えて痛みの股関節とは関係ない場所にも痛みが出ることがあります。
この辺りのケアも必要になってきます。
筋力低下・筋萎縮の予防
筋力は術後でも手術をしないケースでも起きます。
特に股関節周りは筋力低下や筋萎縮が起こりやすいため、筋力強化を図る必要があります。
股関節の安定性を得るための方法については、以下の記事にまとめていますので、合わせてお読みください。
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股関節周囲筋や腰部などの筋筋膜の柔軟性改善・予防
股関節の周囲にある筋肉だけでなく、腰・背中・下半身にも影響が出やすいので、理学療法士などの専門家に行ってもらうことが必要です。
状態が安定していて、在宅生活を送られている方の場合はセルフケアも行えますので、以下の記事を参考にしてみてください。
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安定した歩行の獲得
歩行は状態に応じて段階的に進めていく必要があります。
炎症症状がある場合や痛みが強い場合、股関節に負担がかからないように歩行補助具を使用することをおすすめします。
種類がたくさんありますが、代表的なものとしては、
- 歩行器
- シルバーカー
- 松葉杖
- T字杖
- 四点杖
- ロフストランド杖
こういったものがメジャーになります。
リハビリ室にはたくさんの杖が用意されていますので、どんな杖がいいのか個人差もあり、杖の使い方含め理学療法士に相談して決めてください。
股関節に負担のかかりにくい日常生活の獲得
冒頭にも書いたように、股関節は大きい関節で片足で立つだけでも大きな負担がかかります。
また、立ち上がりや階段の昇り降りはより負担が大きくなります。
このようなことを念頭に置いて、掃除をする時にはなるべくしゃがまなくても済むようなクイックルワイパーなどを使うとか、居室が2階の場合は1階に変更するなどして、なるべく股関節に負担がかからないように環境を整えることも重要です。
しかし、術式によっては股関節の脱臼が起こるリスクがあったりと違いもあります。
この辺りは専門医や理学療法士などの専門家に指示を仰ぐようにしてください。
まとめ
変形性股関節症の概要とリハビリを中心とした治療方法について解説をしましたが、いかがでしたでしょうか。
変形性股関節症は女性に多いため、男性が家事を手伝うだけでも日常生活の負担は大きく減ります。
また、筋肉の柔軟性を保つ、筋力を保つということはとても大切なため、セルフケアはなるべく意識して行うようにしてください。
それでは、少しでも参考になれば幸いです。
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